はじめに

「前の会社を辞めてから次の会社に入るまでの1か月、健康保険の手続を何もしていなかった」
外国人の方の転職ではこのような「手続漏れ」が発生しやすくなります。
会社の健康保険は退職と一緒に終わるため、次の会社で働くまで自分で国民健康保険(国保)などに入る必要があります。

在留期間の更新や在留資格の変更では、税金や国保料をきちんと納めているかも見られます。
出入国在留管理庁(入管庁)は2026年6月に更新・変更のガイドラインを改正し、厚生労働省の資料では2027年6月から区市町村の国保料の納付情報を入管庁と連携する予定とされています。

この記事では転職のすき間に国保の手続や支払いをしていなかった外国人と、その人を中途採用する会社に向けて、今のルール・2027年6月から変わる予定のこと・今からできることを順に整理します。

会社を辞めたら

会社の健康保険は退職と同時に終了するので、次の会社に入るまでの間は本人が自分でどの保険に入るか決め、手続きします。

日本の公的な医療保険は会社員が入る「健康保険」と、それ以外の人が入る「国民健康保険」に分かれています。
外国籍の方も「在留期間が3か月を超えていて、住民登録をしている」ことが原則の加入条件です。

退職後の手続きを分類すると以下になります。

手続きどんな人向けか手続先
国民健康保険に入るもっとも一般的。期間が短くても必要住んでいる区・市の窓口
前の会社の健康保険を続ける(任意継続)退職前に一定期間加入していて、続けたい人前の会社が入っていた健康保険(協会けんぽや健保組合)
家族の健康保険の扶養に入る配偶者などが会社員で、収入などの条件に合う人家族の勤務先

国保の加入届出は、会社の健康保険をやめてから14日以内が目安です。
届出が遅れると、その間にかかった医療費が全額自己負担になるとされています。(払い戻しが適用されるかは別問題)

また、国保に入るべき日は「届出をした日」ではなく、会社の保険をやめた日が基本です。
そのため、届出が遅れても遡って保険料がかかるのが一般的な扱いです。
具体的な金額や納期は住んでいる区・市の窓口で確認してください。

なお、20歳以上60歳未満の方は厚生年金から抜けた間は国民年金の手続も必要になります。
この記事では主に国保を扱いますが、年金も同じように「手続漏れ」が生じやすいところです。

国保料の悪質な未納は更新で不利になる?

2027年を待たずに今のルールでも国保料の未納は在留審査で見られます。

入管庁の「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」は、審査で考える事情の1つに「7 納税義務等を履行していること」を挙げています。
そこには次のように書かれています。

国民健康保険料など、法令によって納付することとされているものについて、高額の未納や長期間の未納などが判明した場合も悪質なものについては同様に取り扱います。

ここでいう「同様に取り扱う」とは、税金の未納と同じように「消極的な要素」、つまり許可に不利な事情として見るという意味です。
さらに注書きで、入管庁が関係機関から受け取った納付状況の情報をもとに判断する場合があるとも書かれています。

ポイントは2つです。

  • 対象は「高額・長期などで悪質なもの」:ガイドラインは「1日でも遅れたら不許可」とは書いていません。どこからが「悪質」かの金額や期間も公表されていません。
  • 最後は総合判断:ガイドラインは考慮する事情をすべて満たしていても総合的に判断して不許可になることがあるとも書いています。単純に未納があったら必ず不許可、未納がなければ必ず許可、という仕組みではありません。

混同しやすいのが申請時の「健康保険証の提示」です。
入管庁は、保険証の発行が終わった後は「資格情報のお知らせ」や「資格確認書」などの提示を求めつつ、「健康保険証等を提示できないことで在留資格の変更又は在留期間の更新を不許可とすることはありません」としています。
保険証を見せられるかどうかと、保険料を納めているかどうかは別の話です。

また、内閣官房が公開している資料では国保料の滞納情報を地方出入国在留管理局に提供する取組を令和7年6月末時点で68市町村がすでに導入しているとされています。

2027年6月開始へ

厚生労働省の資料では、2027年6月から市区町村が持つ外国人の国保料の納付情報を入管庁と電子的に連携する予定です。

厚生労働省の説明会資料「在留外国人の医療保険適用の課題と対応」で示されている主な内容は次のとおりです。

項目資料に書かれている内容
始まる時期令和9年6月から情報連携を始める予定
連携される情報滞納があるかどうかにかかわらず、外国人の直近5年分の収納情報(課された額・納めた額など)を、基本的に毎月つなぐ想定
本人の同意入管庁は本人の同意を得て情報を見る。同意しない場合は納付証明書の提示を求める
審査での扱い更新・変更の審査で未納状況を確認。納付証明書等を提示しない場合は、原則として期間更新等を認めない
引越しした人転入前の市町村での収納状況も確認される想定
対象者の範囲世帯主に限るかは調整中。別の厚労省資料(令和7年11月26日)では、世帯主の国籍にかかわらずすべての外国人被保険者を対象にする方向で検討

転職のすき間で大事なのは「直近5年分」という部分です。
2027年6月より前の未納でも、直近5年分として後の審査で見られる可能性があります。

一方で、どの程度の未納をどう評価するか、後から納めた場合にどう扱うかは今回確認した資料には書かれていません。
参考までに内閣官房の資料では、すでに情報提供をしている市町村で、情報提供の後に更新・変更の処分を受けた人のうち「納付して許可を得た割合は93.4%」とされています(令和3年1月~令和7年2月)。この数字は、後から納めれば必ず許可されるという意味ではありませんが、未納に気づいたら早く納めることの大切さは読み取れます。

未納に気づいたら

国保の未払いに心当たりがある場合は更新申請を待たずに、今住んでいる市区町村の国民健康保険の窓口で状況を確認するのが先です。

確認の順番は次のとおりです。

  1. 退職日と入社日を確認:前の会社の退職証明や、今の会社の雇用契約書で日付を確認します。
  2. その間にどの保険に入っていたかを確認する:国保・任意継続・家族の扶養のどれにも入っていない期間がないかを見ます。
  3. 市区町村の窓口で、加入の届出と保険料を確認する:転職時期に引越しをしていれば、その時期に住んでいた区市町村も関係します。
  4. 納める・納め方を相談する:一度に納めるのが難しい場合も放置せず窓口で納め方を相談します。
  5. 領収書や納付証明書を残しておく:将来、入管から納付証明書の提示を求められる場面も想定されています。取得できる書類の名前や手続は窓口で確認してください。

もう一つ大事なのが新しい会社に入った後の「国保をやめる届出」です。
届出をしないと、会社の健康保険に入った後も国保の納付通知が届き続け、「払っていない国保料」があるように見えてしまうことがあります。
脱退のときも14日以内の届出が必要です。

中途採用する会社が確認すること

本人の国保料は本人が納めるものですが、更新で不利になると会社にとっても人材を失うことになります。
そのため入社の際は一緒に確認しておくと安心です。

以下は義務ではなく実務上の確認事項として整理したものです。

入社時に会社が確認したいこと

  • 前の会社の退職日と、当社の入社日の間にすき間があるか
  • すき間がある場合、その間に国保などに入っていたか(分からなければ市区町村の窓口で確認するよう案内)
  • 入社後、本人が国保をやめる届出をしたか
  • 当社の健康保険・厚生年金の加入手続を済ませたか
  • 家族(家族滞在など)がいる場合、家族は当社の健康保険の扶養に入るのか国保のままなのか
  • 入管への届出(本人の所属機関に関する届出、特定技能なら受入れ機関の届出など)が済んでいるか

会社が入社時に「前の会社を辞めてから今日まで、保険はどうしていましたか」と一言聞くだけでも、本人が未納に気づくきっかけになります。
本人が日本語の通知書を読み落としている場合もあるため、多言語生活ガイドブックのような自治体の資料を案内するのも一つの方法です。

ケース別Q&A

Q1. すき間は2週間だけでした。それでも国保の手続は必要ですか?

短い期間でも、会社の健康保険や家族の扶養に入っていない間は国保に入るのが原則です。

Q2. 前の会社の健康保険を任意継続していました。国保は関係ありますか?

任意継続で健康保険に入っていた期間は国保には入りません。
2027年6月からの連携で対象とされているのは国保の収納情報です。
ただし、ガイドラインは国保料を「法令によって納付することとされているもの」の例として挙げているため、任意継続の保険料もきちんと納めておくことが大切です。

Q3. 家族滞在の妻(夫)も国保に入っています。家族の未納も関係ありますか?

国保は世帯ごとに保険料が計算される仕組みです。
厚生労働省の資料では、連携の対象を世帯主に限るかは調整中とされ、すべての外国人被保険者を対象にする方向で検討されています。家族の分も含めて、世帯の納付状況を確認しておくと安心です。

Q4. 将来、永住申請も考えています。

永住許可では、より厳格に税金・年金・医療保険などの公的義務をきちんと果たしてきたかを見られます。
転職のすき間の国保・国民年金は、永住を考える人ほど早めに確認しておきたいところです。
永住の公的義務の詳しい扱いは、入管庁の「永住許可に関するガイドライン」で確認してください。

まとめ

転職のすき間の国保は「短い期間だから大丈夫」と思いやすいところです。
しかし、更新・変更のガイドラインは国保料の高額・長期などの悪質な未納を不利な事情として扱うと明記しています。

  • 会社の健康保険は退職で終わり、次の入社までは国保・任意継続・家族の扶養のどれかに入る
  • 国保の加入も脱退も、14日以内の届出が案内されている
  • 今のガイドラインでも関係機関からの納付状況の情報をもとに判断する場合がある
  • 2027年6月からは区市町村の直近5年分の国保料の収納情報を入管庁とつなぐ予定(細部は検討中)
  • 会社は中途採用の入社時に「すき間の保険」を一緒に確認しておくと安心

心当たりがある場合は更新申請の前に、住んでいる区・市の国民健康保険の窓口で未納がないかを確認し、早めに納めて領収書などを残しておくことが今できるいちばん確実な備えです。

また、2027年6月の連携の対象者や審査での扱いは今後、入管庁や厚生労働省から詳しく公表される可能性があります。

参考情報

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執筆・監修:ビッグアロー行政書士事務所